あたまに運動靴

あたまに運動靴

雑記。知識の体系的な整理や学術的な解釈の紹介でない

もっと知りたい関西ことば

 最近思ったんだけど、

「それ確か先輩が~って言ってた気がする」
「おれ昔サッカーやってたんだんよね」

のようなときの「てた」の発音について、"いってた"[iQteta]が "いっつた"[iQtsta]、"やってた"[jaQteta]が "やっつた"[jaQtsta]に発音されることがよくある気がする(特に10~20代男性のあいだでの会話で)。これは「て」の音に関して、母音が弱化あるいは脱落したって考えていいのかな?

 これはよく言われる話だけれど、反対に、関西人はよく母音を前に押し出すようにして話すように思う。
我々関東人が「タクシー」と発音する際[taku ɕiː]の"ク"の音は、殆ど子音のみが発音されている気がする(無声軟口蓋破裂音である"ク"の[k]と無声歯茎硬口蓋摩擦音である"シ"の[ɕ]、この2つの無声子音に挟まれた"ク"の母音である[u]が弱化するような感じ)。一方で、関西人が「タクシー」と発音する際にこのような母音の脱落が起こることはなく、むしろはっきりと「く」と発音される(発音は[takɯ ɕiː]といった感じで、「く」の母音"ウ"をしっかりと言うイメージ)。「ネクタイ」という語であれば、関東人が"ネkタイ″のように言うのに対し、関西人ははっきりと"ネクタイ″と発音する、といった感じだ。

他にも”母音を前に押し出すように話す”の例を挙げると、「なんか歯が痛いんだよね」と言う時には、「なんか歯ぁが痛いねんな」のように[ha]の母音を強調するように発音したり、「気ぃ悪いなあ」のように[ki]の母音が長く押されるように発音したりと、一音節の語の場合には母音がさらにもう一つ重なるようにして発音されることなども分かり易い例だと思う。

 これを踏まえると、上で挙げた

"いってた"[iQteta]→"いっつた"[iQtsta]

の母音のリダクションは、若者言葉的な変化というよりむしろ、共通語或いは東京言葉の発音特徴なのかな


 関西弁について気になることは沢山ある。中でも、関西弁の否定形の文法的な使い分け、動詞の否定形が形成される際に動詞に接続する否定形態素の決定される規則、についてよく知れたらいいなと思う。

共通語では否定のバリエーションは「ない」の一種類であるのに対し、関西弁の否定形はこれに加えて、「ん」「へん」「ひん」が存在する。「できる」という動詞句の否定であれば「できない」「できん」「できへん」「できひん」のように言うことができる。しかし、どのような動詞であっても4ついずれの否定形をつくれるわけではないようである。例えば、「知る」の否定形であれば「知らん」が一番よく耳にするが「知らへん」というのは殆ど聞かない気がする。そして「知りひん」とはまず言わないだろう。知らんけど。

また、「する」の否定形は、「しない」「せん」「せえへん」「しいひん」のように言うことができる。「する」は、この動詞だけの特殊な活用をする。語幹と活用語尾の区別を持たず、未然形は「し」「せ」「さ」と活用する。どうやら、否定の「へん」「ひん」は、直前に来る動詞句の母音が、否定形態素の頭の母音と揃うように選択される。語中に現れる母音を決定するこのような規則を、母音調和というらしい。ウイグル語やモンゴル語ハンガリー語のようなユーラシアの言語でよくみられる。

しかし、「行く」の否定の形としては「行かへん」も「行けへん」も両方の用例が考えられる。そして、この2つにはしっかりと使い分けがあるようだ。つまり、単に母音調和が起きているものとそうでないもの、というわけではないらしい。まず、「行かへん」は単純に「行かない」、つまり"I don't go."の形を意味している。そして、「行けない」"I can't go."は、可能の助動詞「れる」の未然形を挿入して「行かれへん」の形で表現できる。すると、「行けへん」は共通語に訳したときに「行かない」「行けない」のどっちなんだろうか。

「行かへん」→「行かない」"I don't go."
「行けへん」→ 〈「行かない」or「行けない」のどっちに近いニュアンス?〉
「行かれへん」→「行けない」"I can't go."

ちょこっと調べてみたり友達に聞いてみたりしたけれど、「行かへん」と「行けへん」は基本的には同じであり、不可能を表すのは「行かれへん」のみであるという人や、「行けへん」は「行かへん」よりも不可能のニュアンスを含むが、「行かれへん」とも明確に使い分けられているという人もいるようで、よくわからん。

関西弁ムズ